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2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

名前のない手記(23)

「ん? どうしてですか?」 藤田君は目を丸めた。私は声を落として言った。「こんな都会の掃き溜めのようなところで大切な時間を浪費するものじゃないよ。オレは正真正銘の落伍者だが、君にはまだまだ可能性がある。こんなところで過ごして将来を棒に振って…

名前のない手記(22)

〇 それから数日後、タレントの酒井法子が逮捕された。覚せい剤取締法違反容疑とのことだ。藤田君と同じように「魔が差した」のである。しかし人間である以上、魔が差さぬことなどあろうはずはない。大切なのはどのように魔を飼い馴らして生きていくかという…

名前のない手記(21)

笹本は名を司といい、歳は四十代の半ばということだった。藤田君が勤めていた家電量販店で店長をしていた。笹本が藤田君に語ったところによれば、藤田君が派遣切りに遭ったすぐ後に店は経営上の理由により閉店。笹本も職を失った。クビである。その後、都内…

名前のない手記(20)

翌日、私が日雇いの仕事を終えて帰ってくると、なんと藤田君はまだ寝ていた。おばさんが言うには、日中に数度、起き出してきてはトイレで激しい嘔吐を繰り返していたとのことだ。昨夜は相当な量を飲んだようだ。 私はいつものようにドヤ街の通りで住人たちと…