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2018-07-01から1ヶ月間の記事一覧

似顔絵師(6)

師走はせわしなく過ぎていった。昭男たちはすでに年始、春へ向けての活動を始め、あゆみたちは事務処理に焦り、工場は生産に追われていた。 一年が終わろうとする、師走のこの慌ただしいわずかな数日間が、昭男は好きだった。会社を見ても世間を見ても、誰も…

似顔絵師(5)

引き継ぎはその後、何の支障もなく進んだ。どの得意先でも、「わらびストアーズ」のように清次の退任が必要以上に惜しまれることはなかった。引き継ぎの帰り道の車中で、清次は「ああまであっさり了解されても、悲しいものだよな」と苦笑していた。 一方で昭…

似顔絵師(4)

大型受注が一件あった。決めたのは先輩の金村だった。全国に大型ショッピングセンターを展開する得意先で、鍋料理の小さなレシピを商品近くに置き、いろいろな鍋料理とともに飲み物を提案するプランが採用された。商品の納入も拡大し、売れ行きの伸びも大い…

似顔絵師(3)

やさしい秋の風に細い髪をなびかせ、清次は昭男にボールを投げる。「少し前の暑さが、嘘みたいだよな」 と、唐突に言う。もはや十一月である。この夏はとんでもない暑さが続いたが、過ぎてみればあっという間のことだったようにも感じる。 今日の引き継ぎは…