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2019-01-01から1ヶ月間の記事一覧

名前のない手記(19)

〇 私は乱闘騒ぎの直後、藤田君を見つけた。藤田君は顔を紅潮させ、走りつかれて住宅街のゴミ置き場で倒れて眠っていた。「愚かな男だ。このまま死んでしまった方がどれだけマシか解らない」 私はそう思った。そして、そのように思って見棄てておけばよかっ…

名前のない手記(18)

「バブル」。そうなのだ。奴らのもう一つの共通項は、戦後すぐか高度成長のただ中に生まれ、バブルの絶頂へ向かう「日本の上昇気流」をもろに浴びて育った世代であることだ。奴らにとっては「明日はもっと良く」ならなくてはならず、働く者はすべからくその…

名前のない手記(17)

〇 ここで、藤田君と数ヶ月の間、生活を共にしていた中年男の笹本のことを補足しておく。この男のことなど書きたくもないが、藤田君の名誉のために多少は紙面を割いておく必要がある。 ホームレス連中と見物客との乱闘の引き金を引いたのは、明らかに笹本で…

名前のない手記(16)

藤田君は殺気に満ちた目を男に向けると、逆に男のシャツの襟を掴んだ。体をのけぞらせ、男の鼻をめがけて思い切り頭突きを食らわせた。鈍い音がした。私は無言のまま大口を開けた。とんでもないことが起きたと思った。男は鼻から大量の血を噴き出して倒れた…