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2018-10-01から1ヶ月間の記事一覧

名前のない手記(6)

「しかし、アメリカという国はこれからどうなるのだろう?」「僕がチビのころ、アメリカは『世界の第一等国』というイメージでしたね。街でかかる映画はほとんどがハリウッド映画で、マイケルやマライアが世界のトップエインターテイナーという感じだった。…

名前のない手記(5)

〇 その時点では藤田君はただ「相部屋の奇妙な若者」だった。その印象が変わり、もう一歩踏み込んだ間柄に変わったのは、先に述べたとおり結婚の喪失を聞いてからだ。アメリカでバラク・オバマが大統領選挙に勝利した十一月の初めごろのこと。深夜、藤田君と…

名前のない手記(4)

このドヤ街では藤田君のようにのっけから自分の素性を明かす者は少ない。明かすとしても、よほど相手と親しくなってからのことであろう。しかし、私の経験上では親しくなった相手に対してもここの人間が本当の過去を語るとは信じがたい。ここにたむろする連…

名前のない手記(3)

〇 初めて藤田君と会ったのは昨年の十月の中ごろであったろう。金本旅館で相部屋となった当初は珍しく若い男が泊まりに来ているな、と思った程度で気にも留めなかった。最初に藤田君に注意を向けたのは、十月の終わりごろのある夜である。 金本旅館では一室…