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アルミニウム(1)

 ――ところでその、腕にまばらに付いている火傷の痕はいったい何だい?
 ――はぁ……これは、溶けたアルミの湯が飛び散って……。ようするに、金型を掃除する時、こびりついたアルミを一度溶かさないといけませんので、金型の中に腕を突っ込んで、ガスバーナーで溶かすんですが、その時にジュワッと弾け飛ぶんですよ、アルミが。それで、こんな火傷に。
 ――よくやるねぇ、そんな仕事。
 助手席のAは、Sの左腕を覆う気味の悪い火傷痕を凝視して、はァと溜息を吐いた――途端にスコッチと煙草の匂いの混じった口臭がSの鼻を突いた。火傷の痕は真っ暗な車中では確認できないが、車が街灯の下を通るたびに、ハンドルに伸びる左腕と共に闇の中に浮かび上がり、火傷痕もその不吉な表情を現した。Aはその瞬間を見逃さなかったのだ。Sは暑苦しさのために半袖のシャツを着てきたことを悔いた。Aがいかに常連客とはいえ、運転代行のドライバーという立場を越え本業のことを語らなくてはならない理由はなかった。いつもは形式ばかりの安全運転でのろのろ走って時間を稼ぐのだが、Aを送り届ける先は承知しているから、さっさと届けてさよならしようと、アクセルを踏み込んだ。
 ――おぉ、飛ばすねぇ。
 Aが重低音でうなった。フロントガラスの雨粒が、街灯のやわらかい光を受けて闇の中に星空のように煌めいた。

(つづく)